レズビアンカップル

Hitotsubashi Outing Case
in 2015

​一橋アウティング事件を語り継ぐ

2014.1
出会い
A meets Z 

 AとZは一橋大学ロースクールへの入学前、2014年1月にオリエンテーションで初めて出会った。そしてその後も、飲み会などで友達として親睦を深めていく。この頃の2人の関係は良好だった。ZはAから、大きくて着ていないという理由からコートをプレゼントされ、Zはお礼に朝の弱いAのためにモーニングコールをかけていた。そんな中、Aは次第にZに対して恋愛感情を持つようになっていった。

桜の花びら

一橋大学ロースクール内は40人ほどの少人数によるクラス制をとっていて、2クラス編成になっている。さらに、クラス内でチームにわかれて共同作業を行う機会も多く設けられている。同級生と親密になりやすいとも考えられるが、一方で離脱可能性の低い閉鎖的な空間とも言える。

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2015.4.3
​告白
Confessed his love

 2015年4月3日、自分の気持ちを抑えられなくなったAはLINEでZに恋愛感情を打ち明けた。

はっきり言うと、俺、好きだ、付き合いたいです

ひどい裏切りだと思う

​ごめん

 困惑したZは、この時AとZとの共通の友人Xに「他言しない」という約束の上相談をしている。これは先の定義に照らせば、れっきとしたアウティング行為である。

相談後、ZはAに対して次のように返信した。

むちゃくちゃ言われてもいいから、返事もらえるとうれしいです

​本当ごめん

おう。マジか。正直言うと、びっくりしたわ。Aのことはいい奴だと思うけど、そういう対象としては見れない。付き合うことはできないけど、これからもよき友達でいて欲しい。これがおれの返事だわ

その後もメッセージが続く。一部を抜粋して書き出す。

ずっと言おうとおもってて、勇気が出なくてずっと言えなかったんだ

俺のこと好きにはならないって頭では分かってても、ちょっとでも可能性ないかと思うとLINEとか送っちゃって、最近はひどかったと思う

こんなこと言って申し訳なかった

ちゃんと諦めるからまた飯誘ったりとかして気が乗ったら来てくれたら嬉しいす!

いや、全然キモいとかそういうのはないよ。世の中には一定数同性のこと好きになる人はいるわけだから

趣味の違いの一種みたいなもんでしょ。そんな自分のこと卑下しないで前向きに趣味の問題くらいに捉えた方がいいと思う。おれはちょっと期待に応えられないけど、今後も同性の人好きになったとしてもあんまり自分のこと責めたりするのは必要ないのではないかとは思うよ。うん。長くなったけどそういう感じで

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うん、ありがとう

ずっと悩んでて、どうしてこんななっちゃったかっていつもおもってて

そう言ってくれると救われた気持ちになるわ・・

2015.6.24
Outing

 本件アウティングが起こったのは、2015年6月24日のグループラインでのことである。

 ZはAを含めるロースクールの学生9人が入っているLINEグループでこのようにAのセクシュアリティをアウティングをした。Aはセクシュアリティを極めて限定的にしかカミングアウトしておらず、家族にも秘密にしていた。無論、ロースクールの同級生にはカミングアウトしていなかった。アウティングに対して、Zは後の裁判中に次のような主張を行なっている。

交際を断ったにもかかわらず、Aが『普通の友人以上』に連絡などをしてくることが全く理解できず、大変困惑し、精神的に不安定になり夜眠れなくなっていった。

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ここでの「普通の友人以上」の関係にあたるAの行動とはZが言うには以下の様である。

  • 「授業までに来なかったら起こして」と頼んだ。

  • 4月22日、評判のいい12個の中堅法律事務所のURLをLINEで送った。

  • 口頭やLINEで、食事に誘った。

  • 5月中旬、他の友人と一緒にハイキングに行こうと誘った。

  • 5月18日、友人とラーメン屋に行こうと話していたら、誘ってもいないのについてきた。

  • 友人と司法試験予備校の講演会に参加しようという話をしていたら、Aも行くと言いだした。

  • 5月下旬以降、学校のラウンジで話しかけてきた。「うん」「そう」と返事をしていたところ、頭を抱えて「うあー」と声を出した。腕の付近に触れてきたので、「触るな」と告げた。

  • 「今日香水強いかな」と言ってきた。

このようなAからZに対する行為は後の裁判で争点となった。しかし、Zのアウティングは一度だけではなかった。Zは先述したように告白後すぐ共通の友人Xに対してアウティングを行っていた。Xとのやりとりに関しては後述する。

Check Point

2015.8.24
Suicide
​自死

 LINEグループでのアウティング後、Aは精神的に不安定になっていった。授業などでZと同席すると、緊張や怒り、悲しみによって吐き気や動悸が生じるようになってしまった。Aが通うクリニックで、Aは鬱と軽度のパニック障害と診断された。またこのときパキシル、ソラナックス、ベンザリンが処方された。ソラナックスには副作用として、衝動や感情を抑えられなくなる脱抑制効果があることが知られている。

 Aはアウティングされた後、担当教授であるB教授と大学内にあるハラスメント相談室でアウティング被害に関して相談をしている。B教授とのやりとりはその後の裁判で特に重要な争点となっているため、細かなやりとりは後述する。ハラスメント相談室ではZのアウティングに対しての対応を相談していた。裁判資料から当時の相談内容を確認したい(裁判資料①)。

初回面談内容(2015年7月27日)

①バイセクシャルであること(ただし裁判においては、Aは「同性愛者」という前提事実が両当事者間で認められた)

②SNSで暴露されたこと

③告白を断られていたこと、

④期末試験についてはロースクールのB教授に相談し、診断書をもらい再試験を受ける方針になっていること

⑤体調不良があり、安定剤が必要で、心療内科に通院していること

⑥クラス移動も可能だが、なぜ自分が移らなくてはいけないのか疑問であること

⑦Zが責任を認めていないことに対し、納得できないこと

第2回目面談内容(2015年8月3日)

①再試験を受けることになったこと

②民事模擬裁判がこの日にあったが、Zに対するストレスで外に行って吐いてしまったこと

③ハラスメント対策委員会へ措置の申し出をしようと思うこと

④弁護士に相談してみたところ、アウティングで大学側の何らかの措置が必要なレベルであること

⑤申立書に記載する内容は迷っていること

第3回目面談内容(2015年8月10日)

①親には詳しいことは言っていないが、訴訟を検討していること

②体調がよくない時は抗うつ剤を服用していること

③しばらく実家に帰ること

保健センターから一般情報として入手していた、同性愛に関する悩みについての相談対応等を行なっている性同一性障害のクリニックについて情報提供したところ、行ってみたいとのことであった。その時点での体調不良についても配慮してもらいながら相談できる機関ということも考慮しての情報提供であった。

Check Point

 3度目の面談後の2015年8月24日、Aは一橋大学マーキュリータワーから身を投げ自死した。自死事件当時のAの様子もまた裁判資料からわかっている。大学医Cによる報告文書である(裁判資料②)。

・10時頃、教室にいた学生Aの具合が悪そうだったため、職員が彼を保健センターに連れてきた。来る前に、所持していた抗不安薬を1錠服用していた。

・所持薬を確認。 Aの通うメンタルクリニックで処方された薬は抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤であった。

・職員から、今日の講義(模擬裁判)に出席しないと単位がもらえない、出ない方が良いと思う、学校医に一筆書いてもらいたい、書いてもらってどうなるかはわからない、という話があった。

・11時ごろ、Aが看護師に、ハラスメント相談室相談員との約束があったと話したので、看護師がハラスメント相談室相談員に連絡して保健センターまで来てもらった。

・性同一性障害のクリニックに関してはAはすでに知っており、9月に行くつもりだと述べた(補足資料①)。

・午後の講義について、無理しない方が良いと伝え、欠席するなら意見書を出すことができると伝えた。Aは「どうしても出たいんです。今日はそのために来たんです」と述べた。

・講義開始まで30分ほどあった。昼食を取るように勧めると、さっと支度して休養室を出た。5分ほどでパンを手にして保健センターに戻ると、休養室には戻らず、出口に近いオープンスペースで椅子に腰掛け、パンを食べ始めた。「どうですか」「大丈夫」と声をかけたところ、 Aは静かに頷いた。パンを食べた後、「(講義に)やっぱり行きますか」と聞くと、「はい」「もう大丈夫です」と述べて、抗不安薬を1錠服用した。

・ Aに「看護師さんに一緒に行ってもらいましょうか」と聞いたが「いえ、いいです」と断られた。午後の講義の時間について聞くと、 Aは「14時15分から18時まで」と答えた。休憩時間がはっきりしなかったので、Aに「何かあればいつでも戻ってきてね」と伝えた。連絡先を伝えるために保健センターの案内(診断スケジュール、電話番号、メールアドレス)を手渡した。Aはそれを受け取り、「母が心配して明日上京するので会ってください」といった。「わかりました」と承知した。

・15時過ぎ、事故の連絡があり、看護師とともに現場に向かった。

 午前中の授業内でAはパニック発作を起こしてしまう。10時ごろ、Aはロースクール職員に付き添われて大学内にある保健センターへとやってきた。一橋大学ロースクールの単位認定は厳しい。8月上旬にパニック発作で民事の模擬裁判を欠席した際には、「模擬裁判を休んだ人は今までにいない。卒業できないかもしれない」という説明を受けていた。実際にこの日も、職員から保健センターの医師に「学校医に一筆書いてほしい。ただ、単位認定がどうなるかは分からない」という話があった。

 結局Aの強い希望で、午後の授業には参加することとなった。そして14時15分、刑事の模擬裁判授業が始まる。この授業には午前の授業と同じくZも出席していた。

 15時4分ごろ、マーキュリータワー6階のベランダに手をかけ、ぶらさがるAの姿が確認された。Aは転落し病院に搬送されたが、18時36分ごろに死亡が確認された。

死亡直前、Aはクラス全体のLINEグループに以下の書き込みを残している。

抽象天井

おかしいんじゃないか Zが弁護士になるような法曹界なら、もう自分の理想はこの世界にはない

これで最後にします

いままでよくしてくれてありがとうございました